原爆症認定訴訟:上告断念へ 原告ら「早く終わらせて」 /広島【2008.06.07】(毎日新聞)

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◇全面解決、楽観できず
 原爆症認定を求めた集団訴訟で、国は11人の原告を原爆症と認めた仙台・大阪高裁判決を受け入れ、上告断念の方向で検討している。病気の体で裁判を闘う原告は6日、「断念は当然だ。早く他の訴訟も終わらせてほしい」と今後の展開に期待した。だが係争中の集団訴訟に対する国の姿勢は不透明なままで、今後も早期全面解決は楽観できそうにない。【宇城昇、大沢瑞季、井上梢】
被爆
◇「当然でしょ」「謝罪を」
 「当然でしょ」。原告の一人、木村裕彦さん(77)=南区旭1=は上告断念方針を冷静に受け止めた。14歳の時に爆心地から約1・7キロ、学徒動員で工場に向かう途中に被爆した。胆のうと脾臓(ひぞう)を摘出し、75年ごろにC型肝炎と分かった。その後も、糖尿病や白内障も患った。
 国の新基準で肝機能障害は積極認定の対象外になったが、大阪高裁判決は、新基準による範囲外の病気(甲状腺機能低下症や貧血)にも、放射線起因性を認めた。木村さんは「国は早く私を認定してほしい」。また、県被団協の坪井直理事長(83)は「ひと安心した。国は一言『これまでの認定のあり方は間違っていた』と謝罪してほしい」と話した。
◆識者・医師
 広島訴訟の原告を支援する田村和之・龍谷法科大学院教授は「上告理由が見つからず、断念せざるを得ないのだろう」と指摘する。そして「国は早急に、新基準の積極認定の範囲に、司法が繰り返し認めた疾病を加えるべきだ」と話した。
 両高裁判決は、被爆者救済の範囲を拡大させる意義があった。全国で続く集団訴訟の判決も、両高裁判決と同様の判断をするとみられ、田村教授は「国はいたずらに敗訴を重ねるべきでない」と早期の全面解決を訴える。
 原爆症と認定されるには、病気が原爆の放射線によるものという「放射線起因性」と、治療や検査が必要な状態にある「要医療性」の二つがそろっていることが条件。仙台高裁判決は半年に一度の定期検査も「要医療性」に当たると判断し、胃がん切除後の後障害も、原爆による疾病の延長線上にあると認めた。
◇「国家補償が原点」
 福島生協病院(西区)の斉藤紀院長は「がんは転移や再発の危険性が高く、検査や再発防止策は重要。判決は予防医学的な視点に立ったもので、要医療性の範囲を広げた」と評価する。また、「被爆者援護法は戦争犠牲者への国家補償の考えに立つ。司法判断も国家補償の考えに立つのに、国は社会保障の考えにとどめており姿勢が異なる。被爆者援護法の原点に戻る必要がある」とも指摘した。
 自身も被爆者で、かつて国の原爆症認定審査会委員を務めた碓井静照・県医師会長(71)は「仙台、大阪高裁の判決は被爆者援護法の精神を尊重し、一歩踏み込んだ内容だった」と言う。4月から認定基準が大幅に緩和されたが、「対象疾患を増やしていくような方法ではきりがない。新しい病気が出てくるたびに裁判をしなくてはならなくなる」と指摘した。