米ワシントンポストの広告と公娼制について

こんにちは。梁英聖です。

ちょっと日にちが経ちましたが、先日米国のワシントンポストに日本の国会議員らが署名した広告が掲載されました。

*ちなみに当の広告「the facts」のPDFファイルはこちら
http://nishimura-voice.seesaa.net/article/44871251.html

広告の内容はホントにひどい。
(内容は http://d.hatena.ne.jp/dotcom-sengo/20070616 )。
個人的には、すぎやまこういちが積極的に働きかけていたことがショックでした。ドラクエの音楽、大好きだったのに・・・。

それはそうと、気になるのは広告内容の
(4)慰安婦は「性奴隷」でない、慰安婦公娼制度であり、当時の世界では普通のことである。

ありがちな論難ですね。が、それに反対する側に「「慰安婦」にされた女性は処女であり「売春婦」とは別だ」という批判が少なくありません。私も昔はそう批判してましたが、最近強くこの論理の問題を感じます。

これは確かに「慰安婦」制度が本人の意に反して強かんその他の行為を強いるものであった、という事実に力点がおかれたものでしょう。けれども「いわゆる「売春婦」であったなら「慰安婦」にされても仕方ない」ということにはなりません。「慰安婦」制度と「売春婦」を切り離そうとする批判は思いがけず「売春婦」への差別を助長してしまうのではないでしょうか?

そもそも近代の公娼制度とは「軍隊慰安と性病管理を基軸とした国家管理売春の体系であり、近代国家の建設−とりわけ強力な軍隊の建設−の利益を結合して誕生した制度」(*1)と言います。当初から軍隊と密接に結びついていたのです。強い近代国家建設のために強い兵隊(男性)が必要で、そのためには国家が管理(性病予防など)する「安全な売春婦」(女性)が必要とされたということです。ナポレオン時代のフランスで生まれ、日本には明治時代に導入されます。

公娼制で働いた女性たちに自由はあったのでしょうか? 日本の公娼制では廃業するときに親の許可が必要でしたから本人の自由はありません。それに経済的に言えば、公娼制で働く女性は貧しい人達が多く、加えて売買春業者はかのじょらに借金を背負せるので、たとえ賃金をもらっていてもそれ以上の借金がかさむように仕組まれていたと言います。また1日に相手にする人数も20・30人以上であったケースも少なくなかったようです。

このように見ると、次のように研究者が言うのもうなずけるでしょう。「公娼制という国家による無制限な性暴力は「慰安婦」制度の歴史的背景ではなく、土壌そのものであり、その本質において連続した制度であると言える」。(*2)

この公娼制大日本帝国の植民地支配・侵略戦争によって軍隊とともにアジアへ展開していったのでした。そしてアジアではより暴力的に公娼制度の性暴力が展開されました。1930年代からつくられたと理解されている「慰安婦」制度には上のような前史があったと言えるでしょう。

慰安婦」制度の批判は公娼制とそれを必要とした近代国家の批判にまで結びつかないと不十分だと思います。公娼制批判は日本人の元「慰安婦」がほとんど全く被害を告発していない状況を変えうるでしょうし、また現在の軍隊と性暴力の関係を考える契機を私たちにくれるでしょう。

ところでこの記事、ご存じですか? 北海道の女性自衛官(21歳)が、上司に強かんまがいの行為をされ、被害後も半年以上パワハラを強いられました。彼女はこの件で5月8日に国家賠償請求訴訟を提起しています。

*参考:JANJANの記事
女性自衛官パワハラ訴訟 第1回口頭弁論
http://www.janjan.jp/area/0705/0705100246/1.php
女性自衛官パワハラ訴訟 職場は替わったが
http://www.janjan.jp/area/0706/0705310414/1.php
パワハラ許さない! 現職女性自衛官が国賠提訴
http://www.janjan.jp/area/0706/0706217657/1.php

非常に勇気のいる行動だと思います。自衛隊にもこんな事件が沢山あるのではないでしょうか? 軍隊に性暴力はつきものですから。

*1 藤目ゆき『性の歴史学』p51

*2 宋連玉「公娼制度から「慰安婦」制度への歴史的展開」『日本軍性奴隷制を裁く 2000年女性国際戦犯法廷の記録第三巻』p39