「慰安婦」決議案、米下院外交委が可決

 いわゆる「従軍慰安婦」問題に関する決議案が米下院外交委が可決しました。26日午後(日本時間27日未明)のことです。決議案は一部修正され、賛成39、反対2の大差で可決ました。


記事や日記を見ていても、なぜアメリカで今回決議案が採択されたのか、あまり納得のいく説明がないように思います。

産経などではマイク・ホンダ議員が韓国系の在米団体から資金提供を受けていることを指摘して今回の件を説明していますが、それだけでは彼が決議案を提出したことの説明は出来ても、決議案が下院本会議で採択されたことの説明としては不十分でしょう。

彼が決議案を出すの自体、今回が初めてではないし、これまではいずれも廃案となっています。いま問題になっているのは、あくまで議会採決されそうであるからに過ぎません。にもかかわらず、個人非難に終始しているのは明らかに論点がずれています。


最低限、アメリカのアジア政策の転換は考慮すべきでしょう。いま、経済的な利益を考えれば、アジア市場は無視しえない存在です。このことを否定する人はあまりいないでしょう。WTO交渉が行き詰る中、アジアでもEPA構想が進行していました。つまり、世界的な貿易のルールは当事者間の利益が複雑で、ルールづくりが進展しないため、地域間や2国間などの単位で、話を進めてしまおうということです。


これに危機感を覚えたのがアメリカです。アジア諸国間でのルールづくりが進行することは、アメリカの参入の幅をせばめることになるからです。そのため、昨年まではアジアでのEPA構想を妨害してきました。しかし、阻止することが出来ないと悟るや、日本をテコにしてアジア市場への参入を図るというスタンスに変わってきたのです。

そこで、ネックになるのが歴史認識の問題です。なにせ、日本自体がアジア諸国と険悪なのでは手のうちようがないでしょう? これは日本の経済界が望んでいることでもあります。安倍首相が就任当初から自身の主義主張を抑え、「河野談話の継承」などといわざるをえなかったのは、小泉首相靖国参拝を繰り返し、最悪になった関係性の修復がかなり影響していると思います。

と、結論としては、僕はアメリカで議会採決がなされようとしている要因について、ロビー活動は決定要因にはならないと思うし、ましてや人道的な見地から決議案を支持した、などとは到底思えません。それよりも、「慰安婦」問題がアメリカにとっても国益となっていることに着目すべきだと思います。

また、今回の決議案では修正意見として「日本の首相が公式謝罪すれば、これまで繰り返された日本側の声明と誠実さへの疑問を解く助けとなる」という文が挿入されました。

これは、裏を返せば日本側が決議を受け入れれば、それで問題が解決したとみなす、というアメリカの意図を示すものです。しかし、重要なのは安倍首相が4月に訪米してブッシュに謝罪したことにも言えますが、アメリカが納得するかではないことは明らかです。僕は今回の決議が出されることの意義やその内容は、一部留保をつければ素晴らしいものだと思います。ただ、被害者を抜きにして、日米間での政治決着によって問題が解決すると考えるのは明らかに筋違いです。

朝日新聞などでもアジア女性基金の中心的なイデオローグであった大沼氏が「日本の謝罪をもっと評価すべき」という趣旨の文を寄せていますが、むしろ、なぜその「謝罪」が評価されないのか? 多くの女性たちが基金を受けとらなかったのか? ということを考えるべきでしょう。

他のブログを観ていても、「なぜアメリカからこんな決議をだされなければならないんだ!」という論調は多くあります。僕もそれはその通りだと思います。なぜなら、この問題は加害の側としての責任を持つ日本政府と被害者との問題であると考えるからです。(Juggler)