【関連】『司法の公正性に失望』 番組改変NHK勝訴 原告ら憤りや疑問の声【2008.06.13】(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008061302000098.html

 「司法の公平、公正性に失望した」。従軍慰安婦をめぐるNHK番組改変訴訟の最高裁判決。改変の背景に政治による介入があったと訴えた原告の「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」のメンバーらは十二日の判決後、記者会見し、取材協力者の報道に対する期待や信頼は例外的な場面に限られるとした判決に不満をあらわにした。 
 西野瑠美子共同代表は「(判決は)誰から表現の自由を守らねばならないのか(理解していない)」と失望感をあらわにした。代理人の飯田正剛弁護士は「結論ありきの判決。一般論に終始しており、到底負けたとは思えない」と憤った。
 「表現の自由は死んだ」「メディアと市民が手を携え番組づくりをして、信頼関係で生じた期待や信頼は法的保護に値しないのか」「法的保護を『格段の負担』が生じた場合に限定したことで原審よりハードルが高くなった」。会見の出席者から怒りや疑問の声が次々と上がった。
 「それでもメディアの報道の自由を期待している」。西野さんはそう言葉を結んだ。
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 番組改変は、控訴審結審直前に朝日新聞が「政治家の介入があった」と報道、番組制作プロデューサーも「介入は恒常化していた」と内部告発したことで社会問題化した。
 二審・東京高裁の認定によると、番組が改変されたのは二〇〇一年一月下旬。当時の放送総局長、国会担当局長らが立ち会う異例の試写があった。総局長らが立ち会った二回目の試写後、旧日本軍の性的暴行などを認定し日本と昭和天皇に責任があるとした部分の全面カットなどが指示された。
 放送当日にも、総局長の指示で旧日本軍兵士と元慰安婦の証言が削除された。
 予算の国会承認を得るために国会議員に説明する時期と重なり、総局長らが安倍晋三官房副長官(当時)と面談した際に番組内容を説明。安倍氏従軍慰安婦についての持論を展開した上で、「番組作りは公平・中立に」と発言していた。
 二審判決は「NHK幹部らは番組が予算編成に影響を与えないようにしたいとの思惑があった。(安倍氏らの発言を)必要以上に重く受け止め改変した」と判断していた。

『政治家の影響』言及せず
<解説> NHKのドキュメンタリー番組をめぐる最高裁判決は、憲法が保障する「表現の自由」から導かれる「編集の自由」を重視、結果的に取材された側の期待や信頼と異なる番組内容になっても、違法ではないと判断した。
 取材協力者の意図通りの番組内容にしなければならないなら、メディアの取材・表現活動は萎縮(いしゅく)する。情報を握る政治家や公権力が悪用する可能性もある。「期待権」を認めた二審判決は「もろ刃の剣」の面があり、最高裁の判断は一般論としてはもっともだ。
 しかし、問題の本質は、最高裁が判断に無関係として言及しなかった「政治家の影響」にある。二審判決は、NHK幹部が国会議員に放送前の番組内容を説明した点を重視。幹部が議員の心中をおもんばかって改変を行ったと認定し、「NHKは編集権を乱用し、自ら放棄したに等しい」と厳しく批判した。
 当時のプロデューサーは「幹部が現場の反対を押し切った」と証言。「政治介入は恒常化していた」と内部告発した事実は重い。
 「最高裁は制作現場ではなく幹部の編集の自由を認めた」と原告弁護団は記者会見で述べた。最高裁判決が尊重したメディアの自律性や編集権は、権力の監視機関として政治との緊張関係を保った上でこそ、守られる権利であることを忘れてはならない。 (出田阿生)